FナンバーとNAの変換式

幾何光学

本記事ではレンズの明るさを表すパラメータである、FナンバーとNA、その変換について記します。

Fナンバー

Fナンバーは大文字のFを用いて、「\(F\)#」や「\(F\)ナンバー」、「\(F\)値」、「\(F\)」と表現します。いずれも「エフナンバー」と呼びます。一方で、焦点距離は小文字のfを用いて、\(f\)と表現します。両者は混同しやすいので注意が必要です。

デジタルスチルカメラ(DSC)のレンズでは、レンズの焦点距離とFナンバーを例えば「50mm/F1.8」のように表現します。ここでは、前の50mmが焦点距離を表し、後ろのF1.8がFナンバーを表します。また、私のお気に入りの「M. ZUIKO DIGITAL 25mm F1.8(OMデジタルソリューションズ)」では、その鏡筒に1:1.8のように1:焦点距離/有効口径(=有効口径:焦点距離)の口径比として表現しています(Fig.1)。Fナンバーが小さな値であるほど、そのレンズは明るいレンズであることを表します。明るいレンズはその名の通り多くの光を取り込むことができ、暗い被写体でもノイズが少なく綺麗な撮影が可能になります。星空を撮影する星景写真では、明るいレンズとフルサイズのカメラが重宝されます。

Fig.1 カメラレンズのFナンバー表示の例

Fナンバーの定義はFig.2のレンズパラメータを用いて、Eq.1の通り表されます。先に出てきた有効口径は入射瞳の直径として再定義しています。

Fig.2 Fナンバーに関するレンズパラメータ

$$
F=\frac{f}{D}   Eq.1
$$

この式の通り、入射瞳の直径が大きいほどFナンバーの値は小さくなります。このとき、像面の明るさを像面照度と呼び、測光量を用いた単位で\([lm/m^2]\)と表します。測光量\(E\)はFナンバーを用いて、Eq.2のように表現できます。\(\tau\)はレンズの透過率、\(B\)は物体の輝度を表します[1]。

$$
E=\frac{\pi\tau B}{4F^2}   Eq.2
$$

この式から分かるように、Fナンバーが\(\sqrt{2}\)倍のとき、像面照度Eは1/2倍となります。そのため、DSCなどのカメラレンズにはFナンバーの目盛りを\(\sqrt{2}\)(≒1.4)の等比数列で切ってあります。例えばF2.8を基準におくと、像面照度の相対比はTable1の通りになります。ここで、Fナンバーを2.8から2.0に変更するとき、「絞り値を1段小さくする」といいます。このとき、像面照度は2倍になります。同じ理屈で、Fナンバーを2.8から4に変更するとき、「絞り値を1段大きくする」といい、像面照度は1/2倍になります。DSCの製品によっては、1/2段や1/3段ずつ絞り値を変更できる製品もあります。

Table1 Fナンバーの目盛りの例

~コーヒーブレイク~
光学業界では、「口径」や「入射瞳径」など〇〇径と表現することが多々あります。私がこの業界に入ったとき、これは直径のことなのか、半径のことなのか、どちらだろうと悩むことがありました。大体は「直径」を表すことが多いですが、稀にそうでない場合もあります。例えば、光学設計ソフトのZemaxではアパーチャを半径で入力します。実務上でもこの問題に直面しました。それは、パートナー企業とのコミュニケーションで半径と直径の誤解があり、モノづくりに手戻り発生したことでした。それ以来、図面や仕様書などの正式ドキュメントでは〇〇直径や〇〇半径などと明確に表現するようにしています。

NA

NAはNumerial Aperture(開口数)のことで、「\(N.A.\)」や「\(NA\)」と表現します。Fナンバーと同じくレンズの明るさを表しますが、こちらは主に顕微鏡の対物レンズやレーザ集光レンズなどに用いられることが多いです。それは、これらのアプリケーションでの重要なパラメータである、分解能やレーザ集光スポットがNAと密接な関係にあるためです。

レンズパラメータと像側開口数NAとの関係式をEq.3に示します。\(n\)は像空間の屈折率、\(\theta\)は像点における光の集光角度(半角)を表します(Fig.3)。像点から距離\(f\)の等距離面を像側主表面と呼びます。

$$
\begin{align}
&NA=n\sin{\theta}=\frac{D}{2f}   Eq.3\\
&ただし、n=1とする。
\end{align}
$$

Fig.3 NAに関するレンズパラメータ

さて、ここでレーザ集光レンズを考えてみます。レーザ集光点が像点に相当します。集光レンズが十分に収差を補正されているとすると、その分解能は回折限界による制約を受けます。回折とは光の波の性質により、広がったり、回り込んだりする物理現象のことです。どんなに収差の少ない優秀な集光レンズでも、波の性質により広がった光で集光点の小ささに限界値が生じます。これが回折限界で、Ernst Abbe(ドイツ)によりEq.4が発見されました。Abbeは、光学ガラスの分散を表すアッベ数を生み出したことでも有名です。同じくドイツのCarl ZeissやFriedrich Schottらと共に、現在の光学分野の礎を築きました。

$$
s=\frac{\lambda}{2n\sin{\theta}}=\frac{\lambda}{2NA}    Eq.4
$$

Eq.4の\(s\)はスポット半径、\(\lambda\)は光の波長を表します。集光点を小さくする、すなわち、スポット半径を小さくするには波長を短くするか、もしくはNAを大きくする必要があります。この性質は、半導体露光装置(ステッパー)の光学系で応用されています。例えば、光源を可視光よりも波長の短い紫外線を用い、開口数を大きくするために液浸露光が用いられています。

FナンバーとNAの変換式

FナンバーとNAは共に明るさを表すパラメータであり、Eq.1とEq.3から導出される式(Eq.5)による変換が可能です。

$$
F=\frac{1}{2NA}   Eq.5
$$

間違いやすい解釈

FナンバーとNAの変換式の導出で間違いやすい点があります。それは、NAの式を変換するに当たり、Fig.4を参考にしながらEq.6のように解釈することです。

Fig.4 NAに関する間違ったレンズパラメータの解釈

$$
(間違った式)NA=\sin{\theta}=\frac{D/2}{\sqrt{(D/2)^2+f^2}}=\frac{D}{\sqrt{D^2+4f^2}}   Eq.6
$$

本来は\(\sin\)の変換において、正弦条件を考慮する必要があります。正弦条件とは、軸上物点に対する球面収差及び軸上に近接する物点に対するコマ収差がゼロである、アプラナートの成立条件です[2]。すなわち、像点から主表面までの距離は同じであり、これを図に表すとFig.3の像点と主表面の関係性で表されます。

参考文献

[1] 荒木敬介, “光学技術の事典:第Ⅱ部 製造技術 絞りとその作用”, 朝倉書店, pp.41-43.
[2] 早水良定, “光機器の光学Ⅰ:第5章 幾何学的な収差”, JOEM, pp.336-343.